毎週日曜日06:35-07:00にEテレにて放送されている『NHK 俳句』、2016年9月11日の放送で個人的にかなり好きな俳句が詠まれていました。

 

 

兼題「葡萄」で傑作が飛び出す

 

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その俳句が詠まれたのは今月9月の第2週だったと思います。選者は俳人の「堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)」さんで、ゲストは作家の「町田康(まちだ・こう)」さん。司会はエッセイストの「岸本葉子(きしもと・ようこ)」さんです。

兼題は「葡萄(ぶどう)」でした。視聴者から番組に投稿された俳句の中から選者が選んだ入選9句のうち、一番初めに詠まれた句に、私は衝撃を受けました。とても好きな句でした。

その句を本ブログに書き出すことはあれなので何となくのニュアンスを書きますと、「黒い葡萄の中に青い葡萄が一粒だけ残っていたなぁ」みたいな句です。

その句を町田康さんは絶賛しており、選者の堀本さんも特選(その回の1位)に選んでいました。

NHK俳句では、司会の岸本さんとゲストが、選者が特選句を発表する前に、選者がどの句を特選に選ぶかの「特選句予想」をします。この回でも予想をしていまして、そのときに町田さんは「もうこれは間違いなだろうなと思う」としたのがその句でした。句が大変に整っているし、叙情的だし、本来黒い物が青いということはその一粒だけが駄目な物ということで、その一点に着目した視点が素晴らしかった、という感想を仰っていたかと思います。

ちなみに「叙情(じょじょう)」とは「感情を述べ表すこと」ですね。

先程申し上げたように、町田さんの予想通りに堀本さんは特選にその句を選びました。まさにシンプル・イズ・ベストで、その場の色合いが見えてきて美しい句だと仰っていました。町田さんは堀本さんの句への評価を聞きながらフムフムと頷き、この句が選ばれたことは当然だと言わんばかりの表情を浮かべていました。というか「当然」だと半分冗談で笑顔ですけど本当に言っていました。

 

 

正岡子規の「写生」を思い出す

私は俳句や短歌を読むことは好きなのですが詠むことはほとんどしません。そんな私ですけど、今回紹介している句を見たときに「正岡子規(まさおか・しき)」の「写生」の精神が宿っているのではないかと思いました。

写生とはスケッチのことと思います。つまり物事をありのまま描写すること、文章でいうならば、叙情とは対象的な叙事的な文章になるでしょうか。叙事(じょじ)とは事柄をありのままに述べることですね。

この句は、詠まれている言葉をそのまま拾うと、黒い葡萄の中にただ一粒だけ青い物が混ざっていた、只それだけの文章です。実に叙事的です。しかし、詠んだ投稿者さんが黒い葡萄の実がたくさん成っている中に、ただ一粒の、未成熟なのか傷んでいるのか熟しすぎたのかわからないですが、でもおそらく傷みが進んだのであろう青い実を見つけ、敢えてその一粒を取り上げて俳句を詠んだという行為には、詠み人の意思が強く入り込んでいるようで、見ている・聞いている・読んでいる私たちにはたいへん叙情的な俳句に感じられます。

正岡子規の俳句「稲刈りて にぶくなりたる 蝗かな」を彷彿とさせる何かを感じます。蝗の読みは「イナゴ」です。この句も、ただイナゴの様子を詠んでいるだけの写生だけれども、句を読んでいる私達にとっては、冬とイナゴの死がそう遠くない時期にやって来ることが伝わってきますし、子規の死期が確実に近づいてきていることを暗示しているのではないかと連想させる句になっていると思います。傑作です。

 

 

おわりに

『NHK俳句』は毎回のように感心させられる句ばかりで、私などが鑑賞を述べて良いものか迷うのですが、この回のこの俳句はとりわけ感動をしたので思い切って記事にしました。

特選句となった俳句を含む入選作と佳作の作品は『NHK俳句』のテキスト11月号に載っていると思われます。番組を見逃した方、句の詳しい内容を知りたい方は購入されると良いかもしれません。

 

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